三十歳手前にして実家住まいの僕は、「同僚女性婚約」の報にショックを受けた。彼女の身体の一部、既婚者確認用人体クスリユビの根元には永遠の輝きが生じ、それが安心の波動を放ってくる。近くに居た同僚の女性など、見る者によっては心に黒い霧が現れ、口のなかで「いつになったら私は…」という言葉を噛み砕く、切迫感に満ちた光景だったのかもしれない。 

「婚約しました」、と女性は自席から身をおこして笑顔になった。「私、奨学金が200万円残っていて。彼は一緒に返そうって言ってくれてるんですけど、それは嫌だから毎月6万円返し始めました。でも全然間に合わない(笑)」 そう聞いた瞬間に、瞬きの歌詞と一緒だ、と思った。

幸せとは、星が降る夜とまぶしい朝が
繰り返すようなものじゃない。
大切な人に降りかかった雨に傘をさせることだ
「瞬き/backnumber」より

婚約の意図は、結婚して夫婦になると約束することにある。それは誰もが知るところだが、"夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない"という日本民法752条を、ハナから全うしている新婚さんがいるとは、未婚同好会首脳部の僕とゴリラ(同僚の女性のあだ名)は想像もしていなかったのである。 

「なんということだ!この子のフィアンセの度量は底が知れぬ。こんな寄り添い方があるか。私の元彼は何もしてくれなかったぞ!」 愚かしいことを、近くに居たゴリラ(彼氏ナシ・27歳)が口走ったのも無理はない。なぜなら、件のフィアンセには「借金も財産と一緒だから」と、相手のすべてを受け入れる覚悟があったからだ。婚約した彼女のいまの感性があるのは、奨学金を借りて楽しんだ学生生活があるから。世間一般では負の要素と見なされるとしても、彼女の人間形成にその借金は必要不可欠だった。そうやってパートナーの人生を全て肯定できる、美しい存在。そして何より、そのフィアンセにそうさせるに値するだけの人格を持った彼女。それが彼女たちならではの驚くべき相互性なのだ。 

クスリユビだけでなく、彼女が全身から安心感を放てる理由はそこにあったのだろう。将来、自分に家族ができた時に安心を与えられるような人間になりたい。そう思える出来事だった。