最近鬱っぽくて、と僕が同僚の女性に話すと、彼女は笑いながらこう言った。「鬱の人は、自分で鬱とか言わないんで!」確かにその通りかもしれない。けれど、ここ1週間くらいは何をやっていても、心が動かないのだ。正確に言えば「気分を奮い立たせるためのナニカ」が足りないといったところで、例えばこんな感じだ。

月曜日、雨が降っていた朝の通勤電車。座っている僕の前に、女性が立っていた。彼女はリュックを体の前に背負い(この場合背負う、で正しいのか?)、そのリュックのポケットに傘を指していた。その結果、濡れた傘の先っぽが僕の右膝に当たり、デニムの膝から下が雨水でビショビショになってしまったのだ。こういう時、普段の僕なら頭に血が上って目の前の人間をどうにか呪い殺そうと邪念を送るのだが、今回は特に何も思わないどころか「僕がちゃんと撥水性のズボンを履いてさえいれば」とか「濡れた程度で気にしてしまう僕はなんて小さな人間なんだろう」とか、なぜか悲観的な方向に考えが及ぶのである。これだけであれば何てことはなかったのだが、ここ1週間は全ての時間・空間において心の具合が良くなかった。

火曜日は、主人公が自殺する小説を読んだせいか「僕ももしかすると最後はこんな風に…」と妄想した。水曜日はたしか定時で仕事が終わったのだが「18時に会社を出たところで何も楽しいことはないし、下手すると本当にジサ…はは。何を考えてるんだ」などという黒い気持ちになったことを覚えている。木曜日に気分転換のつもりで日記を読み返してみたところ「意味のない毎日で退屈な人生だな、こんなことを続けていて何になるんだ…」というような暗い感想が出てきて思わず泣きそうになってしまった。金曜日は、同僚と話してたくさん笑った後に「じゃあ、仕事に戻りますか」と視界から同僚の顔が消えたタイミングで顔が表情を無くしたことに気付いて恐ろしくなった。訳も分からずこんな5日間を過ごして迷走していたところに光が指しこんだのは、土曜日まであと2時間を切った時だった。

「最近、気分が暗いんです」と、冒頭に書いた同僚とは別の同僚(女性)に打ち明けたところ「寒いし、天気も悪いからじゃないですか?」と言われたのだ。彼女はさらに「私は、冬の間半年くらい、テンションが低いですよ。フフフ、絶対ゲリヤさんもそうですよ」と付け足した。気付くと、これまでの心の曇りが嘘だったかのように晴れ、何の根拠もない言葉に「そうに違いない」と僕は確信していた。太陽を見さえすれば、僕の心は回復する。その思い込みが正しいかどうかは、台風が去った明日に分かる。